[ ]ショールームは“楽器”と“調律師の技術”を検証する場
みんなのピアノ選びから抜粋
店を訪問するときの心得
「手入れのよい2流品の製品のほうが、ほったらかしにされたもっと良い銘柄のピアノよりもまさしく上位にあることがよくあります」イェルク・デームス/渡辺健訳『演奏のよろこび』(白水社)より
「ショールームのピアノなのに何で普段から調律・調整をおこなっていないのだ。けしからん!」そうご立腹されているかもしれません。
ここでご理解を頂きたいのはピアノが温度・湿度の変化によって状態が狂う性質であることです。
特に数多くピアノを揃えている店において楽器全てを最高のコンディションで日常管理するのは至難の業。
客の出入りや試弾が相次げば完璧に調律・調整されたピアノでも徐々に状態が崩れてきます。
当然ながら頻繁に手入れすべきですが、経営者の言い分からすると
「調律師に店のピアノばかり調整させてもお金にならん。給料払っているのだから外で調律代を稼いでこい。」というのが多くの楽器店にみられる実態であります。
そこを踏まえたうえで、冒頭の引用です。
ピアニストJoerg Demus(1928~ )はインタビューで楽器とメンテナンスが不可分であることを主張していますが、このコメントはショールームに飾られているピアノにもまさしく当てはまります。
未調整、あるいは仕上げてから時がしばらく経っているポテンシャルを秘めたピアノと、いまベストな状態に整えたばかりの平凡なピアノを並べて展示したとします。
すると時として、音(調律)の気持ち良さ、弾き心地(タッチ)の点において楽器本来の性能とお客様の評価が逆転してしまうことがあります。
「あれ、検討していたピアノは値段が高いだけで案外たいしたことないや。意外とこっちの安いピアノの方が音がきれいで弾きやすいかも・・・」といった具合に。
お客様のこうした反応はピアノに携わる調律師として非常に不本意ですし、不当に低い評価を下されたメーカーにとっても気の毒な話です。そして何よりお客様が品質の良いピアノを見過ごすこと自体が残念でなりません。
つまり楽器が100%の状態でないと、売り手買い手の双方にとってチャンスを逃す可能性がある訳です。このようなお互いにとって望ましくない状況を回避するにはどうすれば良いのでしょうか?
それは、お客様が事前に試弾する旨を店にしっかりと伝えておくことです。
目当てのピアノがハッキリしている方は調律・調整の状態確認、当日までにコンディションを整えられるか等々、前もって店側に問い合わせた方が賢明です。
必ずワンランク上の試弾に繋がりますし、さらには楽器やお客様に対する店の姿勢もチェックすることができるからです。
最近では近所の楽器店だけではなく、わざわざ遠方の店に出向いてまで理想のピアノを追い求める熱心な方が増えてきています。
おそらく各店の対応と楽器の仕上がりを比較・検証してみたい意識の表れでしょう。
その連絡ひとつで実りあるピアノ探しの旅となるかもしれません。
とんだ無駄足だった・・・とならぬように訪問前のご一報をどうかお忘れなく。
☆POINT
「気になるピアノを万全な状態で試弾するためにも店には必ず事前の問い合わせを!同じ条件のもとで楽器の真価と店のサービスを見極めましょう」
みんなのピアノ選び