[ ]中古ピアノが商品になるまで~vol.5
前回のつづきvol.5です。
これまでをご覧になっていない方はこちらからどうぞ。
弦が駒から浮いていないか真鍮棒で軽く叩いてしっかり密着させます。
これにより弦の1本うなりが解消されます。(通常弦は1本だけではうなりは発生しません)
これから調律です。
まずは49番目のA(ラ)の音を442Hzに合わせてから調律します。
チューナーで測ってみると
436Hz。
かなり下がっているので、一度下律(粗調律)をします。
1~2Hz程度でしたらそんなに弦を緩めたり引っ張ったりしなくて済むので、
1回の調律で合わせることができますが、6Hzを急に上げる(引っ張る)と
短時間でまた下がって(戻って)くるので下律といって近いところまで全体の弦を引っ張ります。
下律の時間は20~30分程です。
49Aを445Hzでとり下律をします。
ざっくり下律が終わり、
最初の49A(ラ)を測ってみると・・・
予想通り441.8Hzまで下がっていました。
ここから442Hzで改めてとりなおし本調律(調律)です。
調律が終わると次はハンマーの弾力を調整する整音です。
まずは弦とハンマーの噛み合わせの調整をします。
歯の噛み合わせをイメージしていただくと分かりやすいと思います。
2本(低音部)または3本(中音~高音部)の弦が、同時にハンマーに当たるように削ってレベル(高さ)を合わせるため、一度ハンマーに色をつけます。
カーボン紙を弦につけ、それをハンマーに移します。
このように色がついて見やすくなりました。
ちゃんとハンマーのど真ん中に当たっているか再確認もできます。
ハンマーを弦にあてた状態で弦を1本ずつはじいて音の長さを聴きます。
当然先に早くあたっていると音の長さが短いので、ハンマーのその部分(3本あれば左or真ん中or右)を板ヤスリで削ります。
写真ではわかりづらいので動画でどうぞ。
弦あたり調整が終わり一度全鍵を強く弾いて耳につく音があればチェックします。
気になるところをチョークで印をつけていきます。
耳につくような硬い音がたくさんあったのでハンマーに少しずつ針をさして再度確認。
深くさしたり先端付近を軽くさしたりと、針を入れる場所や深さによって音が随分変わりますので隣同士の音色(音質)と同じようになるように慎重に行ないます。
これで鍵盤・アクション・弦の調整が終わったので、一度テストで弾いてみます。
すると・・
ペダルを踏み、上げた時にきしむような音が出ていました。
下パネルを外して見てみるとやはり・・・
この黒いクロスが当たっているところは
ここです。クロスが圧縮されて硬くなっていたので貼り替え。
これが当たっているところは
このダボ穴です。
オスの方にテフロンパウダーを擦り込ませました。
パネルをして再度弾いてみると、先ほどのきしみは消えました。
次は真ん中のペダルの弱音マフラーの貼り替えです。
よく形がついていますね。
このピアノの元の所有者は、ハンマーの消耗具合とマフラーの消耗具合から見て、弱音ペダルをしたまま弾くことの方が多かったように思います。
剥がして裁断して貼り替えます。
上から低音、中音、次高音、高音と厚みが違います。
貼り替え後弱音ペダルの効き具合を調整します。
鍵盤押えを固定して
鍵盤蓋を乗せて
上前板を着けたら、ようやく形になっていました。
ちなみにこの上前パネルはトーンエスケープ仕様になってます。
通常のアップライトピアノは上前パネル(板)がフラットになっているため屋根の蓋をしめると後ろからしか音が抜けませんので、屋根をあけない限り音が中でこもってしまいます。
トーンエスケープは上前パネル(板)に隙間があるので、
後ろからだけでなく前からも音が抜けるので少しだけこもった音が解消されます。
内側から見ると構造がよくわかります。
再度雑音チェックも終わり作業が完了しましたので、音色の確認で田中先生に試弾していただきました。
いかがでしたでしょうか。
少し長くなりましたが、中古ピアノが入荷して商品になるまでの一連の作業をご紹介しました。
相対的に安価な中古ピアノですが、本来の性能を発揮させるためには面倒な修復や調整作業が必要だということがご理解いただけたかと思います。ピアノの調整作業というものは、省こうとすればほとんど省けます(格安ピアノの正体です)が、省かずに一つ一つの作業を順番に丁寧にやると、いかなるピアノであれ確実に性能(タッチや音色、響き)の良いピアノになります。格安中古ピアノのカラクリをご理解いただけた上で、より多くの方に後悔しないピアノ選びをしていただきたいと心から願っています。
中古ピアノのメリットとデメリット