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ピアノメーカーの現状から考えるピアノ選び

みんなのピアノ選びから抜粋

新品と年代物を比較するとき、よく話題に挙がるのが、木材の質。 資源に恵まれていた昔の楽器の方が響きが良い、とヴィンテージのピアノを愛好する人達も沢山いらっしゃいます。  

確かに以前に比べ、ピアノに適した木々は大量伐採によって絶対量が減少し、響鳴板などに使われる希少な木材の確保にはどのメーカーも苦労しているようです。

「高級な響板はルーマニア産のスプルース材」と私が教わったのも今は昔。現在はアラスカなど別の産地のものが主流になってます。
木材の原産地の変更は、ピアノの音色や響きに少なからず影響を与えていることでしょう。これについては異論ありません。

ただ、それに加えて忘れてならないのが木材の経年変化です。
古いピアノ特有の味わいある音響は、産地というよりも時の経過作っている部分もあり、それを新しいピアノと比較してしまうのはアンフェアというものです。もしかすると新品のピアノも、将来的に同じような響きを奏でる可能性がないとは言えませんからね。

正直、木材や産地の違いのみで、新旧ピアノの良し悪しを論ずるのは難しく、これは好み、個性の範疇とも考えられます。

むしろ、注目すべきは昨今のピアノの生産システム
ミケランジェリは「手工業的に作られるべき」と語っていますが、これは全てハンドメイドで行うという意味合いではありません。

アクションや鍵盤など、均質な精度が求められる部品の加工や成型については、工作機械を用いた方が効率的かつ正確。
工業化は必ずしも悪ではなく、手作業によるムラやバラツキ等を解消してくれるという大きなメリットがあるのです。

ハンブルク製スタインウェイのアクション。名門レンナー社製パーツが搭載されています。
 

かたや、大工仕事のように木材同士を組み合わせるボディはじめ、音とタッチに密接に関わる工程には高度な職人技が不可欠です。

ピアノが人の感性に響く楽器である以上、最後の詰めは人の手で時間をかけて音や響きを意識して作り上げるべきなのですが・・・
ここで機械生産と職人仕事のバランスが問題として浮上します。 

某メーカーの例を挙げますと、もともとは木材を丁寧に削り出して寸分の隙間なく組んでいた作業を、 今は生産時間の短縮のため、LEGOブロックのような簡易なハメ込み式にしてしまっています。

少し緩めに木材を加工しておけば、組み立てが楽になりますから、生産性はもちろん向上しますが、楽器の響きはどうなるでしょう。

弦を叩いて音を鳴らすハンマーフェルトの整音作業も然りです。
強音から弱音まで表現できるように、昔は専門の職人がフェルトに丹念に針を刺して音を聴きながら仕上げていた工程を、今では作業の大部分を機械に任せてしまっているメーカーがあります。

安価なピアノに至っては、そうした大切な調整が行われないまま、聴くに堪えないキンキンと金属的な音で出荷されている場合も・・・。

こうした各工程における簡略化が、1台1台に小さな誤差を生み、その違いが積み重なって、完成時の音、響きの“クオリティの差”、ピアノの個体差に繋がっていると想像するのは難くありません。

建築物で例えるなら、設計図面や素材が素晴らしかったとしても、大工さんの腕が優秀であったとしても、工期に間に合わせるために作業を急かされれば、不出来な結果に終わることもあり得ますよね。

工業の発展によって手仕事による問題点は改善されたものの、職人技術が求められる分野にまで効率性を持ち込んだことで、楽器の完成度に差が生まれてしまうのは、なんとも皮肉です。

これら全ての原因は量産による時間の制約にあると言えます。

本来であれば、ヴァイオリン職人のようにじっくり制作時間を費し、理想の響きを実現するのが、楽器作りのあるべき姿と考えますが、企業ともなると利益の追求、コストの抑制に迫られるのが現実。 

現在のピアノ造りは、商業的な理由によって時間と台数に追われ、楽器として望ましいレベルを保つのが困難な状況に直面しています。
良い悪いという次元ではなく、これも時代の流れなのでしょうか。

メーカーの事情をふまえて、製品の個体差をやむなしとするならばピアノ購入者は、何を基準に、どのように入手すれば失敗しないか、おのずとイメージが湧いてくるのではないかと思います 。

イタリアのブランドFAZIOLIの支柱を裏側から撮影。新興メーカーながら伝統に回帰した見事な造り。真価は隠れた部分に宿るものです。


最後の仕上げは人の手と耳が頼り。一音ずつ聴いて硬い音のハンマーフェルトに針を入れてバランスを整えます。機械生産だけではユーザーの琴線に触れる“楽器”は完成しません。
 


みんなのピアノ選び


お薦めブランド ファツィオリ

お薦めブランド ペトロフ

 

株式会社浜松ピアノ 代表取締役社長

植田 信五


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